熟年離婚をご検討の方へ ~熟年離婚のメリット・デメリットと後悔しないための準備~
目次
熟年離婚とは
熟年離婚とは、一般的に婚姻期間が20年以上の夫婦が離婚することをいいいます。おおむね50歳代以上の夫婦の離婚になります。婚姻生活における配偶者の言動に長年耐えてきたものの、子どもの大学入学や独立、配偶者の定年退職を機に離婚を考えることが多いようです。
自由になって自分の人生を取り戻したいと思う一方で、老後の生活への不安などから離婚を決断するのが難しい場合もあるようです。
熟年離婚の原因

熟年離婚は、長年我慢し続けてきた配偶者への不満が積み重なっているケースが多いです。結婚当時に相手の両親から受けた仕打ち、子どもの出産前後の配偶者の言動、子育てに非協力的な態度が続いてきたり、長年にわたるDVやモラハラ的な言動などを離婚原因に挙げられることが多いです。
そして、このような長年の不満が積み重なっていたところに、ある出来事がきっかけとなって離婚を決意される方が多いです。このきっかけとしては、以下のケースが多くあります。
子どもが大学に入学した・子どもが自立した
子どもが大学や高校を卒業するまでの間は、子どものために離婚を思い留まるという方も多くいらっしゃいます。ですが、子供が成人し、大学に入学し、または就職が決まったことによって、親としての責任をある程度果たせたことや、親権や養育費の問題を気にする必要がなることから離婚を決断する方は少なくありません。
また、子どもが独立して家を出て行ってしまうと夫婦二人きりで過ごさなければならず、その生活に耐えられずに離婚を決意される方もいます。
夫が定年退職した
夫が定年退職して、自宅にずっといるようになったことがきっかけで離婚を決意する方もいます。
定年退職した夫の食事の用意をしなければならない、夫が日常の買い物など妻の行動に口を出してくるようになる、些細なことで夫婦喧嘩が増えるなどがきっかけで、妻側が耐えきれずに離婚を決断するのです。
また、定年退職したのに夫が家事を何もしない、妻が浪費ばかりしているといった事情により、将来ずっと一緒に生活していくことに不安を覚えられる方もいらっしゃいます。
配偶者の親の介護が必要になった
夫や妻の両親が高齢になることにより、頻繁に介護や手伝いに行く必要があり、介護疲れなどで離婚を考える方もいます。義理の両親と一緒に住まなければならない、義理の兄弟と折り合いが悪くなった、介護などが重労働であるのに感謝もされない等といった事情で、精神的な負担に耐えられなくなるケースが多いようです。
熟年離婚に特有の問題

熟年離婚において重要なポイントは、離婚後の生活をいかに安心して過ごせるかにあります。そのため、財産分与や年金分割により老後の生活が成り立つかをしっかり考えておく必要があります。
また、70代以上の高齢の方などの熟年離婚は、相続の問題も視野に入れる必要があります。
財産分与について
離婚をして夫婦関係を解消すると夫婦相互間の扶養義務がなくなるため、離婚後は相手から生活費をもらうことができなくなります。このため、離婚後は、基本的には、財産分与で得たお金と自分の収入や年金だけで生活をしていかなければならないので、財産分与が非常に大切になってきます。
熟年離婚の場合、財産が多岐にわたることが想定されるため、夫婦の財産について漏れがないよう事前にしっかり把握しておく必要があります。配偶者が隠れて収益不動産を購入していたり、株取引をしていたり、預金口座を持っている場合も珍しくありません。
夫婦の財産としては、預貯金の他、不動産、生命保険、株式等の有価証券、車、退職金等が考えられます。
結婚前の預貯金や相続財産といった特有財産についても、夫婦の共有財産との混同を防ぐため、資料の収集・整理をすると良いでしょう。
年金分割について
年金分割には、合意分割の他に3号分割という方法があります。3号分割とは平成20年4月1日以降の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録がある場合、夫婦の一方のみの請求によって、自動的に厚生年金記録を2分の1ずつにできる制度のことです。
熟年離婚の場合、平成20年4月1日以前の厚生年金記録があることが多いため、全ての厚生年金記録を分割するためには、上記の3号分割だけでなく合意分割も行っておく必要があるため注意が必要です。
なお、年金分割の請求期限は、原則として、離婚をした日の翌日から起算して2年以内ですので、それまでに請求の手続きをとるようにしてください。
相続について
70代、80代の方の場合、将来起こるであろう相続を見据えて離婚するか検討する必要があります。
配偶者であれば相続することができますが、離婚して配偶者でなくなった場合、相手の持っている財産を相続することができなくなります。
婚姻生活の不満は、別居をすることで解消されることも多いため、離婚せずに別居をするということを選択される方もいらっしゃいます。
熟年離婚における妻側のメリット・デメリット

妻側のメリット
熟年離婚における妻側のメリットとしては、何といっても財産分与によって得られる金額が高くなりやすいことです。
長年の婚姻生活によって夫婦で築いた財産が大きくなっていたり、住宅ローンを完済しているなどで、財産分与の対象となる財産が大きい場合が多いです。
また、また、夫が定年退職し、まとまった金額の退職金が支給されたことで、夫の預貯金が大幅に増えていることがあります。株式や生命保険についても、長年積み立てたり、投資してきたことにより、財産分与時における評価額が高額になりやすい傾向にあります。
年金分割においても婚姻生活が長い分、年金分割により年金額が増えることになります。
このため妻が年金生活となっても、財産分与と年金で十分に生活していける場合もあります。
また、夫と別居して生活することになるので、夫の食事の用意や洗濯といった夫に関する家事からも解放されることになります。
さらに離婚後は他人となるため、義理の両親の世話や介護なども行う必要がありません。
妻側のデメリット
熟年離婚では、子どもが独立している場合が多いので、基本的には、離婚後は夫から養育費も生活費も支払ってもらえなくなります。このため、離婚後は、財産分与で得たお金と自分の収入で生活をしていく必要があります。
また、離婚後の住居を確保する必要があります。
現在所有している自宅を財産分与で取得するというケースもありますが、その場合は、基本的には住宅ローンが残っていれば、離婚後の住宅ローンは自分で支払わなければならなかったり、自宅に高い価値がある場合は、自宅の評価額の2分の1に当たる金銭の支払いを夫側にしなければならないなどの負担があります。また、従前の自宅は、離婚後に一人で住むには大きすぎるということもあります。
高齢になってくると住宅を賃借することが難しくなってくることがあるので、離婚後に自分に適した家を購入する、実家に戻って生活するなどを検討する必要があります。
熟年離婚における夫側のメリット・デメリット

夫側のメリット
離婚すると、妻に婚姻費用を支払う必要がなくなり、自由に生活することができるようになります。
妻が家計を管理している場合、退職した後も、自分自身の趣味などに自由にお金を使うことができず、ストレスの溜まる生活を送ることになります。離婚した場合には、妻の目を気にすることなく、妻に自分のお金を使われることもなく、自分の思うようにお金を使うことができます。
夫側のデメリット
離婚の際に、預金や退職金、自宅などの財産分与をしなければならないので、まとまった金額を妻側に支払わなければならない場合があります。
また、年金分割により厚生年金記録等が夫婦間で2分の1ずつになることにより、年金の支給額が減ってしまうおそれがあります。
長年不貞行為や妻への暴力を行っていた場合、妻に支払わなければならない離婚慰謝料の金額も高額になってしまうため、注意が必要です。
後悔しないための熟年離婚の準備
近年、長年連れ添った夫婦が離婚する「熟年離婚」が増加しています。子育ての終わりや定年退職を機に、第二の人生を見据えて新たなスタートを切ろうとする人も多い一方で、勢いで離婚に踏み切った結果、経済的・精神的に後悔するケースも少なくありません。熟年離婚を成功させるためには、離婚後の生活まで見据えた事前準備が極めて重要です。
熟年離婚の準備にあたって特に注意したいのが「お金」の問題です。専業主婦だった場合、離婚後の収入が大幅に減る可能性があるため、年金分割や財産分与など、法的に得られる権利を理解し、計算しておく必要があります。
財産分与の対象として特に重要な財産が不動産です。熟年離婚の場合、既に不動産ローンを完済し、また地価が上昇するなどして、不動産の価値が高くなっていることも少なくありません。離婚後のライフプランを描くためにも、不動産の残余価値を正確に把握することは、極めて重要と言えます。
第三者や専門家の意見を取り入れながら、慎重に準備を進めることが大切です。
熟年離婚の流れ
熟年離婚の手続きは、一般的な離婚と大きく変わりません。
まず最初に行うのは、当事者間でのお話合いである協議離婚です。お話合いの中で夫婦間の合意が得られれば、協議離婚が可能ですが、離婚についての合意だけでなく、財産分与や年金分割等ついて明確な取り決めをし、書面に残すことが大切です。
協議でまとまらない場合は、調停離婚に移行します。家庭裁判所の調停委員が間に入り、合意を目指します。もっとも、調停離婚も、夫婦間での合意が得られなければ、離婚は成立しません。
さらに調停でも決裂した場合は、裁判離婚になります。裁判では法的根拠に基づく判断が下されるため、証拠による主張の裏付けがより重要になります。
熟年離婚を弁護士に依頼するメリット
熟年離婚において、弁護士を活用するメリットは大きく分けて3つあります。
まず、法的なアドバイスを受けられる点です。財産分与、年金分割、慰謝料請求など、法的に認められる権利を最大限に主張し、損をしない離婚が実現できます。特に相手が離婚を拒否している場合や、財産を隠している疑いがあるケースでは、弁護士の関与が心強い武器になります。
次に、精神的な負担が軽減される点です。長年の感情のもつれや相手との直接交渉に悩まされることなく、法の専門家である弁護士が間に入ることで法に基づいた冷静なやり取りが可能になります。
最後に、交渉力の違いです。弁護士は交渉のプロであり、相手方の弁護士に対しても的確に対応できます。不利な条件での合意を防ぎ、依頼者にとって最も有利な結果を導くことが期待できます。
当事務所の解決事例
依頼者(妻:60代)、相手方(夫:60代)で、①離婚、②婚姻費用支払請求、③財産分与及び④慰謝料支払等請求の代理交渉のご依頼を受けました。
この事件は、婚姻期間が40年にも及ぶ熟年離婚で、およそ離婚で問題となり得る多くの点が争点となりましたが、最終的には離婚調停の中で、夫名義の財産は夫が、妻名義の財産は妻がそれぞれ取得した上で、夫から妻に対して解決金として350万円を支払うことで合意が成立しました。
まとめ
熟年離婚は、婚姻期間が長くなり、その分離婚にあたって多くの法的問題が生じることも少なくありません。また、法律の問題だけでなく、人生の再出発という意味でも大きな転機です。
法的に正しい形で進めるためにも、安心して離婚後の新しい生活を始めるためにも、熟年離婚の際には、専門家である弁護士にご相談されることをお勧め致します。
















