熟年離婚
目次
1 はじめに
熟年離婚とは、一般的に、結婚してから20年以上経過した後に、離婚することをいいます。配偶者との離婚を考える一方で、離婚後の生活への不安などから、中々決断できない方も多いでしょう。以下では、熟年離婚の原因や、熟年離婚に特有の問題等について説明してきます。
2 熟年離婚の原因
熟年離婚は、長年我慢し続けてきた配偶者への不満が積み重なり、あるきっかけを原因として、離婚を決意される方が多いです。このきっかけとしては、以下のケースが多くあります。
① 子どもが成人して独り立ちした
子どもが大学や高校を卒業するまでの間は、子どものことを想って、離婚に踏み切れない方が多くいます。そのため、子供が成人し、独り立ちすることにより、親権や養育費の問題を気にする必要がなくなり、離婚を決断されるケースが多くいます。また、子どもが独り立ちすると、夫婦二人きりで過ごさなければならず、夫や妻からのモラハラに耐えられなくなったという方もいます。
② 夫が退職して夫婦喧嘩が増えた
夫が退職して、自宅にずっといるようになったことを契機として、夫婦喧嘩が増え、離婚を決断されるケースもあります。夫が家事を何もしない、妻が浪費ばかりしているといった事情により、将来ずっと一緒に生活していくことに不安を覚えられる方が多くいます。
③ 配偶者の親の介護が必要になった
夫や妻の両親が高齢になることにより、頻繁に介護やお手伝いに行く必要があり、介護疲れなどで離婚を考えられる方もいます。義理の両親と一緒に住まなければならない、義理の兄弟と折り合いが悪くなったといった事情で、精神的な負担に耐えられなくなるケースが多いでしょう。
3 熟年離婚に特有の問題
熟年離婚において重要なポイントは、離婚後の生活をいかに安心して過ごせるかにあります。そのため、①財産分与、②年金分割において、いくら取得できるかが問題となります。また、再婚を考えられている方は、③相続の問題も視野に入れる必要があります。
① 財産分与について
熟年離婚の場合、財産が多岐にわたることが想定されるため、財産に漏れがないよう、事前に準備しておく必要があります。主な財産としては、預貯金の他に、不動産、生命保険、株式等の有価証券、車、退職金等が考えられます。結婚前の預貯金や相続財産といった特有財産についても、夫婦の共有財産との混同を防ぐため、資料の収集・整理をすると良いでしょう。
② 年金分割について
年金分割には、合意分割の他に、3号分割という方法があります。3号分割とは、平成20年4月1日以降の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録がある場合、夫婦の一方のみの請求によって、自動的に厚生年金記録を2分の1ずつにできる制度のことです。
熟年離婚の場合、平成20年4月1日以前の厚生年金記録があることが多いため、全ての厚生年金記録を分割するためには、上記の3号分割だけでなく、合意分割も行っておく必要があるため注意が必要です。なお、年金分割の請求期限は、原則として、離婚をした日の翌日から起算して2年以内ですので、それまでに請求の手続きをとるようにしてください。
③ 相続について
熟年離婚をした後、再婚することを検討されている場合、後妻と前妻の子との間で相続争いが生じるケースが多くあります。このような相続人間での紛争を避けるためにも、遺言の作成を検討しておくと良いでしょう。
4 熟年離婚のメリット・デメリット
① 妻側の場合
【メリット】
・財産分与によって得られる金額が高くなりやすい
夫が会社を退職した場合、退職金が支給されたことによって、夫の預貯金が増加していることが多いでしょう。また、株式や生命保険の解約返戻金についても、長年積み立ててきたことにより、高額になりやすい傾向にあります。そのため、年金生活となった場合でも、十分に生活していけるだけの金員を財産分与によって得られるケースもあるといえます。
もっとも、夫に借金がある場合や、夫が自営業者であった場合、財産分与や年金分割を行うことができず、離婚後の生活に困窮するおそれがあります。高齢になればなるほど、就職先を見つけることが困難になるため、離婚した場合、十分に生活していけるかどうか十分に検討する必要があります。
【デメリット】
・夫が離婚に応じない場合、長期の別居が必要となる
夫に離婚意思がない場合には、協議や調停で離婚をすることができず、離婚訴訟となる可能性があります。離婚訴訟において、離婚事由があると認められるためには、夫の不貞行為や暴力、婚姻関係が破綻したといえる程度の別居期間(3~5年程度)等が必要となりますが、別居期間については、婚姻期間が長ければ長いほど、長期間の別居が必要になると考えられています。そのため、転居先での居住費用等が多くかかってしまうケースもあるので、注意が必要です。
② 夫側の場合
【メリット】
・妻に婚姻費用を支払う必要がなくなり、自由に生活できる
妻が家計を管理している場合、退職した後も、自分自身の趣味などに自由にお金を使うことができず、ストレスの溜まる生活を送ることになります。離婚した場合には、妻の浪費等を気にすることなく、自由にお金を使うことができ、老後のための貯蓄などで夫婦喧嘩をする機会もなくなるため、精神的な負担も軽減されるといえます。
【デメリット】
・財産分与額や慰謝料額が高額になるケースがある
上記のとおり、熟年離婚の場合、財産分与額が高額になりやすい傾向にあります。また、会社員であった場合、年金分割により厚生年金記録等が夫婦間で2分の1ずつになることにより、年金の支給額が減ってしまうおそれがあります。また、不貞行為や妻への暴力を行っていた場合、妻に支払わなければならない離婚慰謝料の金額も高額になってしまうため、注意が必要です。
5 まとめ
以上のとおり、子どもの自立、夫の退職、配偶者の親の介護等をきっかけに、熟年離婚を考えられる方が多くいます。老後も夫婦二人で生活していくことに不安をお持ちの方は、離婚を検討する必要があります。財産分与や年金分割の方法が知りたい、離婚の切り出し方が分からないといった方は、是非弁護士にご相談ください。