自宅の財産分与と建物明渡請求・共有物分割請求
1.はじめに
「相手方と離婚をしようと思い、先に自宅を出て別居を始めました。その後、協議離婚がまとまり、自宅の所有権を得ることになり、相手方と子どもらが出ていくことなりました。ところが、相手方は協議離婚の際の約束を守らず、そのまま子どもらと自宅に居座っています。今後、どのように対応すればよいでしょうか。」といったご相談を受けることがあります。
このような場合、事前にどのような点に注意すればよかったのでしょうか。また、相手方を自宅から退去させるにあたり、どのような法的手段が考えられるのでしょうか。
2.財産分与と建物明渡請求
財産分与の結果、自宅につき、所有権あるいは持分を得られなかった配偶者は、占有権原を失い、使用借権や賃借権の設定がされない限り、自宅を明け渡す義務が生じます。
財産分与が確定した後、もし配偶者が出て行かなかった場合、別途、建物明渡訴訟を提起したうえで、場合によっては判決を得、強制執行をする必要があります。
ただし、明渡訴訟を提起するには、費用も時間もかかります。そこで、明渡訴訟を提起することなく、強制執行ができるように、公正証書等で配偶者が退去する旨を定めておくとよいでしょう。具体的には次のとおりです。
① 協議離婚であれば、公正証書で建物明渡の期限を定めておく
② 調停離婚であれば、調停条項に建物明渡の期限を定めておく
③ 裁判離婚であれば、可能であれば和解による上記解決をする
3.財産分与と共有物分割請求(民法256条)
自宅である不動産は、離婚する場合、財産分与として清算することになります。一方、共有である以上、共有者が夫婦である場合でも、共有物分割請求は可能です。
但し、例外として、権利濫用など特殊な事情がある場合には、請求が否定されることもありますので、ご注意ください(大阪高判平成17年6月9日ご参照)。
なお、財産分与と共有物分割は次のとおり、処理の対象とする財産の範囲が異なります。
①財産分与は、夫婦共有財産のすべてを一体として清算対象とする
②共有物分割は、対象の財産だけを分割対象とする
4.離婚よりも共有物分割が先行する場合
実際にはあまりありませんが、理論的には、離婚に伴う財産分与とは別に、共有物分割を行うことは可能です。
離婚の成立までにある程度の期間を要し、負担だけが継続することになる場合、離婚よりも先行して、無駄に所有している状態の不動産の売却を実現するために、共有物分割の手続を用いて、早期の売却を実現することが考えられます。
例えば、次のような場合です。
① 相手方が離婚を拒絶している
② 当方が有責である
③ 共有不動産を夫婦いずれも使用していない
④ 住宅ローンの負担がある
⑤ 相手方が共有不動産の売却を拒絶している
なお、権利濫用など特殊な事情がある場合には、例外的に分割請求自体が否定されることもありますので、ご注意ください(大阪高判平成17年6月9日ご参照)。
自宅の財産分与と建物明渡請求等についてお悩みの方は、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。