離婚後の共同親権について
目次
1 はじめに
離婚後であっても、当事者間の合意や裁判所の判断によって父母の双方が親権者となること(共同親権)を認める民法の改正案が、早ければ2026年に施行されます。
以下では、導入が見込まれている離婚後の共同親権について、解説します(当記事は、2024年5月12日時点で作成したものとなります。)。
2 親権とは
親権とは、子の監護・教育に関する身上監護権と、子の財産の管理に関する財産管理権をいいます。
親権の具体的内容として、親権者には子の居所指定権や職業許可権等が認められ、子の財産に関する行為について包括的代理権が認められています(子の法定代理人)。
3 法改正前の親権に関する規律
改正前の民法では、未成年の子は婚姻中の父母の共同親権に服するとともに、夫婦が離婚するときは一方を親権者と定めることとされており、双方を親権者としたり、親権者を定めずに離婚することは認められていませんでした。
なお、従前から、離婚の合意はあるものの親権が争われている場合、手続上は、家庭裁判所の審判により親権者を定めることにして離婚調停を成立させる余地がありましたが、実務上、親権者が確定しないまま離婚を認めることは子の福祉に適合しないと考えられてきました。
4 改正法の概要
(1) 離婚後に共同親権となる場合
ア 当事者間の協議による合意
改正法では、「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める」旨を規定しており、当事者間の合意があれば離婚後も共同親権となります。
また、親権者の定めがなされていなくとも、「親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされている」ときは離婚の届出を受理できることとされています。
イ 裁判所の判断
改正法は、「協議が整わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をする。」旨を規定し、当事者間で合意に至らない場合でも、一方当事者の請求により、裁判所の判断で離婚後も共同親権とすることを認めています。
また、裁判上の離婚(離婚訴訟の判決による離婚)の場合も、裁判所は父母の「双方又は一方」を親権者として定めることとされています。
(ア) 共同親権にするか否かの判断基準
改正法は、「裁判所は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するにあたっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。」旨を規定していますが、共同親権と単独親権のいずれかを原則とする旨は規定しておらず、裁判所の運用に委ねていると考えられます。
この点、子と同居している親に問題があり、同居していない親の意見を反映させる必要がある場合等につき、裁判所の判断で(一方当事者の請求により)共同親権を認めるべきであるとの見解があります。
もっとも、一方の親に問題があるため他方の親に親権を認めることが子の福祉に適う事案では、むしろ他方の親の単独親権にすべきとも考えられるところであり、結局、いかなる場合に共同親権が子の利益に適うと判断されるのかは現時点で明確ではありません。
単独親権を希望する当事者としては、相手方と子との関係に問題があったり、自身と相手方との対立が激しいこと等を伺わせる具体的事実を証拠に基づいて主張することで、子にとって共同親権が適切でないことを説明する必要があるでしょう。
(イ) 共同親権が許されない場合
改正法は、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならないとし、「子の利益を害するとき」の例として、①「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」、②「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」を挙げています。
そして、②「困難である」か否かを判断するにあたっては、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、協議が整わない理由その他の事情」を考慮することとされています。
ⅮⅤに関し、改正法で共同親権が否定される例として挙げられているのは、暴力等の「おそれ」がある(ため共同親権が困難であると認められる)ときであり、過去にⅮⅤがあったとしても必ず共同親権が否定されるとは限りません。
いわゆるⅮⅤ保護命令の事案ですが、配偶者による暴力等を理由に発令された接近禁止命令の失効(期限切れ)後に被害者が再度の発令を求めた事案において、加害者が被害者への連絡の方法に配慮をみせ、法律に則った適切な行動をとる旨誓約している等の前回発令後の事情を考慮すれば「更なる暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」とはいえないと判断し、被害者の申立てを却下した裁判例があります。
(2) 単独親権から共同親権への変更
改正法では、「子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって親権者を変更することができる」とされ(改正前は「他の一方」へ変更できるとされていました。)、一方当事者の請求により、裁判所の判断で単独親権から共同親権へ変更することも可能とされています。
裁判所に対する請求に期間制限等はなく、既に婚姻関係を解消しているか否かといった事情にかかわらず、未成年の子がいる当事者間では共同親権への変更が問題となりえます。
そして、「家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のために必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。」としており、「協議の経過」については、「父母の一方から他方への暴力等の有無、調停等の利用の有無、公正証書の作成の有無その他の事情」を勘案することとされています。
(3) 子の監護
ア 分掌
改正法は、離婚後も共同親権となっている場合、父母の一方を子の監護をすべき者と指定しなければならない旨の規定を設けず、当事者間で協議により「子の監護の分掌」について定めることとしています(協議の結果、父母の一方を子の監護をすべき者と定めることはできます)。
「子の監護の分掌」について協議が整わないときも、一方当事者の請求により裁判所が定めることになります。
イ 子の監護をすべき者が指定された場合
改正法では、「子の監護をすべき者」として指定された親権者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定・変更、営業の許可・許可の取消し・制限をすることができ、他方の親権者はこれらを妨げてはならないとされています。
(4) 親権の単独行使
ア 改正法の規定
改正法は、父母双方が親権者であるときは、共同で親権を行使する(一方が単独で行使することは認めない)ことを原則とし、①他の一方が親権を行うことができないとき、②子の利益のため急迫の事情があるときは、一方が親権を行い、また③監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使は単独ですることができる旨の規定を設けています。
また、①~③以外の場合(共同で親権を行使しなければならないとき)で、特定の事項について親権の行使に関する父母の協議が調わない場合には、子の利益のために必要があると認められれば、家庭裁判所の判断で、当該事項について父母の一方が単独で親権を行使できることとされています。
イ ②「急迫の事情」、③「監護及び教育に関する日常の行為」についての単独行使
「急迫の事情」がある、あるいは「監護及び教育に関する日常の行為」であるとして親権の単独行使が認められる具体的場面について、改正法は例示していません。
更に、親権の単独行使が認められる場合において、父母いずれの親権(単独)行使が優先するかについても、改正法では定められていません。
そのため、とりわけ離婚後の共同親権の場面では、法律上単独で親権を行使することが認められるか否かにかかわらず、学校等の第三者が、事実上父母の一方による単独での親権行使に応じることに消極的になる可能性があると指摘されています。
5 最後に
共同親権の導入にあたっては、裁判所の運用に左右されるところが大きいこともあり、子の監護・親権をめぐる紛争の激化が想定されます。
もし、「離婚を考えているが、親権がどうなるのか不安」といったことでお困りなら、離婚問題に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。