モラル・ハラスメントがある場合の親権
目次
1 モラル・ハラスメントと親権
家庭内でモラル・ハラスメント(以下「モラハラ」といいます)がある場合,離婚に際して,まるで子どもを利用したハラスメントの一環であるように,親権が激しく争われることがあります。そのような場合,親権はどのような基準で判断されるのか,また,相手に対してどのように対応をすればよいのかご説明します。
2 「親権は渡さない」「お前に親権が認められるわけがない」などというモラハラ加害者の言葉について
モラハラ加害者は,自分が親権を取れることを当然の前提とした発言をしてくることがあります。その根拠として,十分な収入の有無などの経済的側面を指摘してくることもあります。そのため,専業主婦の妻が被害者であった場合,加害者の言葉が正しいように聞こえてしまうこともあるでしょう。
しかし,親権は単純に収入のみで決まるものではありません。むしろ,離婚後一方の親が子を監護養育するにあたり,収入面でのサポートをするために,他方の親には原則として養育費の支払い義務が存在するのです。加害者の言葉に過度に影響されないように心がけ,後述の基準から,冷静に考えてみるようにしましょう。
3 親権及び監護権の判断基準
(1)親権及び監護権
親権は,財産管理を行う部分と,身上監護を行う部分(監護権)に分かれます。理屈の上では,財産管理の部分と監護権とをそれぞれ別の親に帰属させることも可能ですが,実務上,ほとんどの場合で親権者と監護権者は同一とされています。以下では,監護権を含むものとして,「親権」と記載することとします。
(2)親権者を定めるにあたっての判断基準
親権が問題となった場合,親権者は①監護の継続性,②監護能力・監護実績,③監護開始の適法性,④面会交流に対する態度,⑤きょうだい不分離の原則,⑥子ども本人の意思などといった事情から,総合的に判断されます。
一般的に重要視されるのは,①監護の継続性となります。子どもの主たる監護者や生活環境をできるだけ変えないことが望ましい,という考えに基づきます。これは②の監護能力や監護実績とも関連し,それまで適切な監護をしてきた実績があれば,その状況を維持する方向で判断される傾向があります。なお,法律上15歳以上の子どもについては,親権についてその意見を聞かなければならないとされており,一定の年齢以上の子どもについては,その意見も重視されます。
(3)モラハラ被害者に監護実績が十分にある場合
モラハラの被害者側に十分な監護実績があり,別居時若しくは離婚時にも継続して監護を行っている場合,親権者とされる可能性は高いと言えるでしょう。例えば,ずっと育児に専念してきた妻が別居を開始し,子どもも一緒についてきたというような場合には,おそらく妻の側に親権が認められるでしょう。しかし,モラハラに耐えられず,子どもを置いて一人で家を出るなどした場合,監護実績を失うこととなり,時間が経てば経つほど親権の取得が困難となります。
(4)モラハラ加害者に監護実績が十分にある場合
モラハラの加害者側に十分な監護実績があり,別居時若しくは離婚時にも継続して監護を行っている場合も,親権者とされる可能性は高いと言えるでしょう。夫婦間にモラハラがあったとしても,親子関係に影響していない場合には,夫婦間のモラハラ加害者だからという理由だけで加害者側が親権者となることが否定されるわけではありません。
4 モラハラが絡む親権争いで注意すべきポイント
このように,夫婦間にモラハラが存在する場合であっても,親子関係に問題がなければ,モラハラの加害者が親権者に指定される可能性はあります。夫婦関係と親子関係は別のものとして判断されると考えたほうが良いでしょう。したがって,子どもの主たる監護者であったモラハラの被害者が家を出る場合には,弁護士への相談を含め,十分に検討をして行動することをお勧めします。