祖父母の面会交流権

1 はじめに

父母が協議離婚をする場合,父又は母は、子との面会交流について定めるよう家庭裁判所に審判を申し立てることができます(民法766条1項、2項)。
では、祖父母は、子(孫)との面会交流について定めるよう家庭裁判所に審判を申し立てることができるのでしょうか。

2 祖父母と孫との面会交流についての規定はなかった

最高裁判所は、民法に規定がないので、父母以外の第三者は,家庭裁判所に対し,子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないと判断しています(最高裁令和3年3月29日決定)。
この事案の概要は、次のとおりです。
父母と子は、母方の祖父母の家で祖父母と同居していましたが,平成29年1月頃、父が家を出て別居が始まりました。父と母は,3月以降,1週間又は2週間ごとに交替で子を監護し,祖父母は母による子の監護を補助していましたが,母は、平成30年6月に死亡しました。その後は,父が子を監護しています。
このように、祖父母は、事実上孫を監護してきましたが、家庭裁判所に、孫との面会交流の在り方を決めてもらうことはできませんでした。

3 親以外の第三者と子との面会交流に関する規定が成立

令和6年5月17日、家庭裁判所の審判によって、父母以外の親族と子との面会交流を定めることができるとする、民法の改正案が成立しました。
改正された民法の条文は、下記のとおりです。
この改正法は、令和6年5月24日に公布されました。施行日は、同日から2年以内です(附則第1条)。

(審判による父母以外の親族と子との交流の定め)
第七百六十六条の二
家庭裁判所は、前条第二項又は第三項の場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときは、同条第一項に規定する子の監護について必要な事項として父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
2 前項の定めについての前条第二項又は第三項の規定による審判の請求は、次に掲げる者(第二号に掲げる者にあっては、その者と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がないときに限る。)がすることができる。
一 父母
二 父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)

(親子の交流等)
第八百十七条の十三
第七百六十六条(第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の場合のほか、子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求により、同項の事項を定め る。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、父又は母の請求により、前二項の規定による定めを変更することができる。
4 前二項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
5 前項の定めについての第二項又は第三項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
以 上

4 どんな場合でも審判を申し立てられるわけではない

民法の改正により、「子の直系尊属」である祖父母にも、家庭裁判所に対し、孫との面会交流について定めることを求めることができるようになります。
しかし、いつ、どんな場合でも申し立てることができるわけではありません。濫用的な申立てを防ぐために、申立てができるのは、「他に適当な方法」がない場合に限られます。
「他に適当な方法」がない場合とは、父母の一方の死亡や行方不明等の事情によって、父母間の協議や子と別居する父母からの家庭裁判所に対する申立てが不可能又は困難である場面が想定されています。

5 どのような場合でも父母以外の親族と子との交流が認められるわけではない

家庭裁判所に審判の申立てができたとしても、常に父母以外の親族と子との面会交流が認められるわけではありません。「子の利益のため特に必要がある」と認められる場合でなければなりません。
家庭裁判所が父母以外の第三者と子との交流を実施する旨を定める場面は、基本的には、父母間又は当該第三者と相手方となる父母との間に意見対立があるケースが想定されることになります。そうすると、家庭裁判所が(少なくとも一方の)父母の意思に反してでも子と当該第三者との交流を実施する旨を定めることが相当であるといえるのは、例えば、子と当該第三者との間に親子関係に準じた親密な関係が形成されているなどして、子の利益のために特に交流を認める必要性が高い場合に限られます。

6 まとめ

このように、親以外の第三者と子との面会交流に関する規定が設けられましたが、あくまでも例外的な場合という位置づけです。孫と面会交流ができず、寂しい思いをしている祖父母の方は、この分野に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

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