離婚前に別居する重要性とその法的メリット・デメリットについて弁護士が解説
目次
1 別居の重要性
離婚を決意した際、最初に検討すべき重要なステップの一つが「別居」です。特にドメスティック バイオレンス(DV)やモラル ハラスメント(モラハラ)を受けている場合には、心と身体の安全を確保するために、早急な別居が必要不可欠と言えるでしょう。また、別居は単なる生活の分離だけでなく、法的にも重要な意味を持ち、財産分与や婚姻費用、親権に関する取り決めにおいて、別居は大きな影響を与える要素となります。本記事では、特に、別居の法的な側面について解説いたします。
2 離婚前に別居する法的な重要性
離婚前に別居をする場合、別居は以下のような意味を持ちます。
(1)婚姻費用の請求が可能になる
相手より収入が少ない場合や自身が子どもの養育を行っている場合、他方配偶者に対し、婚姻費用の請求を行うことができます。婚姻費用は、別居はしたものの、法律上婚姻関係が続いている間について、双方の生活を同程度のものとするため、収入が少ないほうの配偶者に対して、より収入の多いほうの配偶者が支払いを行うものです。同居中でも十分な生活費を受け取っていない場合には請求が可能ですが、多くの場合、別居開始と共に、この請求を行うこととなります。未払い期間を生じさせないためには、事前に弁護士に相談するなどして、別居と同時に明確に請求の意思を相手に伝えるため、調停申立等の準備をしておくのが良いでしょう。
(2)財産分与の基準日としての役割
別居日は、通常、財産分与における基準日となります。つまり、原則として、別居前に夫婦で取得した財産(不動産や預貯金など)は、財産分与の対象となりますが、別居後に各自が得た財産は分割対象外となります。したがって、別居をすることで、財産分与の対象となる財産を確定させ、また、それ以降に自身が得る財産については、分与の対象から除外することができるのです。
(3)離婚調停や裁判における離婚事由としての意味
別居期間は、裁判離婚となった場合に、離婚が認められるかどうかのひとつの判断要素になります。別居期間が長期間にわたると、婚姻関係が破綻していると認められる可能性が高く、離婚が認められやすくなります。一般的には、別居が3年から5年程度続くと、法的に「婚姻が破綻している」と認定される傾向があります。裁判に至らない、協議や調停の場合でも、別居期間が長くなり裁判によって離婚が認められる可能性が高ければ、交渉に影響します。
3 別居のデメリット
では、別居にはデメリットはあるでしょうか?離婚を希望していないのであれば、最大のデメリットは、既に述べた通り、別居のスタートにより、いわば離婚へのカウントダウンが始まってしまう点でしょう。しかし、離婚を希望する側から見ても、いくつか注意すべき点があります。
(1) 不貞慰謝料請求が困難になる可能性がある
相手に不貞の可能性がある場合であっても、一度別居をしてしまうと、その後に証拠写真等が撮れたとしても、慰謝料請求が難しい場合があります。別居により婚姻関係が破綻し、破綻後に開始した関係であると認定されてしまうと、慰謝料は認められないためです。不貞の疑いがある場合、同居中の証拠の収集状況と、別居の必要性、緊急性などを弁護士に相談しながら、別居のタイミングを決めるのが良いでしょう。
(2) 財産資料の収集が困難になる
一度別居をしてしまうと、相手がどのような財産を管理しているのかを確認することも難しくなります。同居しているからこそわかることもあると思いますので、別居前には、一度弁護士に、同居中に確認しておくべき資料について相談をしておいた方が良いでしょう。
(3)生活費の負担
別居後、収入が高いほうの配偶者には、婚姻費用を支払う義務が生じます。また、世帯が二つに分かれるわけですから、同居時よりも、全体として生活費の負担は大きくなるのが通常です。そのため、別居前に十分な準備をしておかないと、予想以上に経済的な負担が大きくなることもあるでしょう。
(4)環境の変化
子どもを連れて別居をする場合、家庭環境が大きく変わるため、子どもに与える影響も懸念されます。特に、転校や生活環境の大きな変化を伴う場合、子どもへの心理的な影響を最小限に抑えるために、子の監護や面会交流について、子の利益を最優先として相手と十分に話し合うなど、適切な準備と配慮が求められます。
4 離婚前に別居をするにあたり準備しておくこと
(1)別居開始日を明確にする
別居を開始した日を客観的に証明できるよう、明確に証拠を残しておくことが重要です。既に説明した通り、この日が財産分与や婚姻費用の基準日となるためです。単なる冷却期間などではなく、離婚を前提とした別居であることを記載したメールを相手に送るなどして、別居を開始した証拠をしっかりと保管しておきましょう。
(2)婚姻費用の請求準備
別居後、スムーズに婚姻費用を請求するために、調停手続や必要書類などについて確認しておきましょう。裁判例は、通常、相手が婚姻費用の支払いに応じず未払い期間が生じた場合の精算開始時点を別居時ではなく、請求時としています。スムーズに調停申立等を行い、最終的に未払い期間を生じさせないようにする必要があります。
(3)子どもに関する取り決めを行う
子どもがいる場合、子の福祉を最優先に、親権や面会交流の取り決めを事前に行い、子どもの生活が安定するよう配慮することが求められます。子どもの意見を尊重した上で、父母間で合意を形成しておくことが望ましいでしょう。
5 弁護士の必要性
離婚や別居に関する法的な問題は非常に複雑です。特に、財産分与や婚姻費用、親権に関する争いが予想される場合、早期に弁護士に相談することをお勧めいたします。弁護士に相談することで、精神的負担を軽減し、スムーズかつ妥当な解決に至ることができるでしょう。