年金分割
熟年離婚の場合、特に問題になるのが年金の問題です。
公的年金には、原則として20歳以上のすべての国民が加入する義務がある国民年金と、会社員が加入する厚生年金、公務員が加入する共済年金があります。
国民年金は受給資格を満たせば誰でも受給できるので、離婚に際して特に問題とはなりません。問題となるのは厚生年金と共済年金です。
例えば、夫が会社員で妻が専業主婦である場合、夫が厚生年金に加入し、妻は保険料の負担のない第3号被保険者となります。
そして、夫婦が離婚した場合、年金を分割して妻も分割された年金を直接受け取ることができるようになりましたが、分割するのは厚生年金(または共済年金)にあたる部分のみとなります。また、分割することができるのは、結婚期間中の部分に限られることになります。このため、離婚して年金分割の手続をしたけれども、受け取れる年金の額が意外と少なかったというケースも多いようです。
そして年金分割の方法ですが、平成20年4月1日以前と以降では扱いが異なります。
すなわち、平成20年4月1日以前の分は、夫婦の合意により年金を分割する「合意分割」となり、それ以降の分は「3号分割」と呼ばれる制度によることになります。
「合意分割」と「3号分割」が少しわかりにくいので説明します。
合意分割とは、夫婦で話し合って分割の合意を行うもので、最大で2分の1を限度に分割することができます。もし、夫婦で話し合いをしても合意ができなかった場合は、家庭裁判所に調停を申立てて、分割割合を決めることができます。
また、3号分割とは、第3号被保険者(専業主婦など)のみを対象に、妻が専業主婦であった期間は、自動的に夫の厚生年金を2分の1の割合で分割するという制度です。
3号分割は、すでに述べた合意分割とは異なり、夫婦間で分割割合の合意をする必要がありません。このため、家庭裁判所で分割割合を決めてもらう必要もありませんので、年金分割の処理が非常に簡便となります。
夫が会社員で妻が専業主婦(第3号被保険者)の場合で、平成5年に結婚して平成25年の3月に離婚する(結婚期間20年)という例を使って説明します。
この場合、平成20年4月~平成25年3月までの5年間分のみが、「3号分割制度」の対象となり、2分の1の割合で自動的に分割されます。
それまでの15年間(平成5年~平成20年4月1日まで)については、「合意分割制度」に基づいて処理します。つまり、夫婦間で話し合い、2分の1の割合で分割する合意を行います。そして、もし合意が得られなければ家庭裁判所に調停を申し立て、年金分割の割合を決めることになります。
なお、3号分割は専業主婦などの第3号被保険者を対象とするので、共働きの夫婦の場合は適用がありません。
共働きの夫婦の場合には、夫婦それぞれが厚生年金や共済年金に加入していることになりますが、夫の標準報酬が妻よりも多いときに夫の年金を分割することが可能です。この場合は年金が自動的に分割される3号分割の制度の適用はなく、合意による分割のみとなります。
年金の問題は離婚後の生活設計に大きな影響を与える問題なので、正しい理解が必要です。