有価証券の財産分与

1 財産分与の対象

財産分与の対象となる財産の種類については、特に民法上限定があるわけではありません。当事者が婚姻中に協力によって得た財産が財産分与の対象となりますので、有価証券も夫婦の協力によって形成されたと評価できるのであれば、当然に財産分与の対象となります。

2 有価証券の財産分与の方法

換金可能な有価証券については、名義人である夫婦の一方にその有価証券を帰属させ、夫婦のもう一方については調整金で処理する方法や、当該有価証券を売却して金銭により分与する方法が考えられます。

3 有価証券(株式)の算定方法

有価証券のうち株式の算定方法について説明していきます。

⑴ 上場株式の評価方式

上場株式の評価は、別居時(清算的財産分与の基準時)に保有していた株式の数量に、現在の株式の時価(株価)をかけて評価額を算定するのが原則ですが、このような原則的な評価では公平性を欠くようなこともあり得るため、色々な形で個別的な調整がされます(多額の資産をめぐる離婚の実務 三平聡史(日本加除出版 2020年5月)13頁)。
裁判例の中には、財産分与の対象となった株価の基準時について、原告の主張する平成9年3月21日の時点における株価と被告の主張する時点における株価を比較すると、後者の時点で各株式の株価が相当大幅減額していることは明らかであり、株価が日々大きく変動するものであって、資産としての確実性を有しないことなどを考慮すると、上記両時点の平均値をもって評価額とするのが相当であるとしたものがあります(広島高裁岡山支部平成16年6月18日判時1902号61頁)。
このように株価の評価時点については、原則としては現在の株式の時価を基準としているものの、柔軟な対応が行われている例もみられます

⑵ 非上場株式の評価方式

財産分与における非上場株式の評価方式については確立した基準はないものの、裁判例においては、純資産評価方式による事案が多いと思われます。純資産評価方式による場合、会社の貸借対照表に記載のある簿価を基に資産評価をして株価を算出することになりますが(簿価純資産価額方式)、貸借対照表上に記載のある不動産の価格が時価に比べて低い場合、不動産を時価に換算して評価をする場合もあります(時価純資産評価額方式)。また、純資産価額方式により株価を算出した上で、非上場株式については流通性がないことから、裁判官の裁量によって評価額を減額される場合もあります(個別事情にみる離婚給付の増額・減額 主張立証のポイント 森法律事務所 森公任、森本みのり(新日本法規出版 2020年7月)67頁、68頁)。

3 株式の分与の際の課税について

株式等の資産を譲渡した場合の譲渡益に対して課税される税金のことを譲渡所得税といいます。
裁判例によると、財産分与として不動産が譲渡された事案に関し、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体1つの経済的利益ということができる。したがって、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによって、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであると判示し、財産分与によって譲渡された不動産は、譲渡所得税の対象になることを明らかにしました(最三小判昭50・5・27民集29巻5号641頁)。
株式についても、財産分与によって譲渡されたときには、上記判例の射程が及び、譲渡所得税の対象となると考えられます

4 株式以外の有価証券について

市場性のある有価証券は、その市場での時価を基準とし、閉鎖企業等の株式は貸借対照表により計算し、それ以外は、相続税の財産評価基本通達が参考にされます(すぐに役立つ 財産分与から慰謝料・養育費・親権・調停・訴訟まで 最新離婚の法律相談と手続き 実践マニュアル 森公任監修、森元みのり監修(三修社 2020年10月)61頁参照)

5 まとめ

有価証券の財産分与は、そもそも算定が難しかったりするなどほかの財産に比べて専門家の助けが必要な場合があると思います。
有価証券の財産分与の際には、弁護士にご相談されることをお勧め致します。

【参考文献】
⑴ ケーススタディ財産分与の実務 勝木萌・竹下龍之介・中村啓乃・堀尾雅光・宮崎晃(日本加除出版 2021年3月)
⑵ 本文中で挙げたもの

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