自衛官の離婚問題
目次
自衛官と離婚
1.特徴
2014年流行語大賞に「J婚」という言葉がノミネートされたように、自衛官との結婚を希望する女性が増えているようです。国家公務員なので給与も安定しています。
しかし、自衛官とうまく結婚生活を送るにあたっては、配偶者が理解しておくべき点がいくつかあります。
たとえば、引越しは日常茶飯事です。配属先の駐屯地がどこの地域になるかは全くわかりません。また、自衛隊では同じ駐屯地の同じ部隊で働き続けることは稀で、ほとんどの自衛官が数年に一度は違う地域の駐屯地に配属されます。そうなると、配偶者や子どもたちは一緒に引越しをしなければなりません。
さらに、部隊によっては一度訓練に出ると数週間から1ヶ月程度は帰宅できないこともあります。特に、海上自衛隊や海外派遣の場合は数ヶ月戻ってこられません。その間、配偶者は一人で家事・育児をこなさなければなりません。
また、艦艇勤務の自衛官には危険手当が多く付きます。特に、海上自衛隊や航空自衛隊に勤務する自衛官の場合、この危険手当が大きいとききます。
しかし、自衛官がこの艦艇勤務から外れ、地上勤務になるとこの手当は無くなります。そのため、今までの収入より3割近くも給料が減ることがあり、生活が立ちいかなくなる家庭もあるようです。
自衛官と結婚する際には、これらのことをよく話し合い、互いに理解しておくことが大切でしょう。
2.特に気を付ける点
結婚生活を続けることが難しくなった場合、特に次のことに気を付けてください。
①離婚事由
相手方が離婚に同意していない場合、離婚するにあたっては、離婚事由が必要となります。不貞行為やひどい暴力など、わかりやすい離婚事由がなければ、多くの場合、婚姻関係を継続しがたい事由として、正当な理由のない別居期間がどの程度継続しているかが問題となります。
ところが、上記1のとおり、自衛官が海上自衛隊や海外派遣をする場合、職務によって別居生活を送ることになりますから、別居生活をするにあたっての正当な理由の有無が問題となり得ます。
そのため、一般の離婚と比べ、離婚事由の判断が難しくなることが予想されます。
②婚姻費用、養育費、慰謝料
自衛官は国家公務員ですので、自衛官を続ける限り、給与(俸給)を差し押さえることができます。したがいまして、配偶者の方は、婚姻費用、養育費、慰謝料の未払いについては、それほどご心配される必要はないでしょう。
③退職金
将来受け取るはずの退職金が、財産分与の対象となるかは法的に一つの問題となります。この点については、近い将来に受領できる蓋然性がある場合に、将来の退職金を財産分与の対象とすることができることについては、判例が確立しています。
問題は、その評価方法、支払時期、何年先の退職であれば認められるのかということですが、公務員の場合、退職金を受領する蓋然性が高いので、退職が10年以上先であっても、財産分与の対象となる可能性があります。
夫が勤続年数27年、9年後に定年退職する国家公務員の事案で、「国家公務員退職手当法に基づく退職手当の支給を受けたとき、550万円を支払え」と夫に命じた判例があります(名古屋高裁平成12年12月20日判決)。
自衛官も国家公務員ですので、この判例が大いに参考になると思われます。
④年金
自衛官も国家公務員ですので、国家公務員共済年金が財産分与の対象となります。
この点も一般の年金(厚生年金など)とは異なるので、間違えないようにする必要があります。
このように夫婦の一方又は双方が自衛官の場合、離婚にあたり考慮しなければならない特有の問題があります。
したがって、離婚問題を得意とする弁護士にご相談されることをおすすめします。