モラルハラスメントがある場合の親権
目次
モラルハラスメントと親権
家庭内でモラル・ハラスメント(以下「モラハラ」といいます)がある場合、離婚に際して、まるで子どもを利用したハラスメントの一環であるように、親権が激しく争われることがあります。そのような場合、親権はどのような基準で判断されるのか、また、相手に対してどのように対応をすればよいのかご説明します。
「お前に親権が認められるわけがない」というモラハラ加害者の言葉
モラハラ加害者は、自分が親権を取れることを当然の前提とした発言をしてくることがあります。その根拠として、十分な収入の有無などの経済的側面を指摘してくることもあります。そのため、専業主婦の妻が被害者であった場合、加害者の言葉が正しいように聞こえてしまうこともあるでしょう。
しかし、親権は単純に収入のみで決まるものではありません。むしろ、離婚後一方の親が子を監護養育するにあたり、収入面でのサポートをするために、他方の親には原則として養育費の支払い義務が存在するのです。加害者の言葉に過度に影響されないように心がけ、後述の基準から、冷静に考えてみるようにしましょう。
親権及び監護権の判断基準
親権及び監護権
親権は、財産管理を行う部分と、身上監護を行う部分(監護権)に分かれます。理屈の上では、財産管理の部分と監護権とをそれぞれ別の親に帰属させることも可能ですが、実務上、ほとんどの場合で親権者と監護権者は同一とされています。以下では、監護権を含むものとして、「親権」と記載することとします。
親権者を定めるにあたっての判断基準
親権が問題となった場合、親権者は①主たる監護者、②監護環境の継続性、③子の意思の尊重、④きょうだい不分離、⑤監護開始の違法性、⑥面会交流の許容性、⑦婚姻関係破綻の有責性などといった事情から、総合的に判断されます。
一般的に重要視されるのは、①主たる監護者となります。子の出生以来、主として子を継続的かつ適切に監護している者であれば、子の精神的かつ身体的なニーズを満たす存在として適格性を備えているであろうという考えに基づきます。したがって、別居まで適切な監護をしてきた実績があれば、その状況を維持する方向で判断される傾向があるといえます。
なお、法律上15歳以上の子どもについては、親権についてその意見を聞かなければならないとされており、一定の年齢以上の子どもについては、その意見も重視されます。また、かつては、乳幼児については母親優先の原則が基準とされていましたが、主たる監護者は生物学的母や女性に限定されるものではなく、子の健全な成長・発達のために不可欠である愛着関係や心理的絆が実質的に誰との間に形成されているのかをみて判断されることになりますので、男性だから、父親だから直ちに不利ということにもなりません。
モラハラ被害者に監護実績が十分にある場合
モラハラの被害者側に十分な監護実績があり、別居時若しくは離婚時にも継続して監護を行っている場合、親権者とされる可能性は高いと言えるでしょう。例えば、ずっと育児に専念してきた妻が夫からのモラハラをきっかけに別居を開始し、子どもも一緒についてきたというような場合には、おそらく妻の側に親権が認められるでしょう。しかし、モラハラに耐えられず、妻が子どもを置いて一人で家を出るなどした場合、夫側から任意に子どもの引き渡しを受けられる場合はともかく、子どもの監護権を争われた場合には、自身の積み上げてきた監護実績を失ってしまうため、時間が経てば経つほど親権の取得が困難となります。
モラハラ加害者に監護実績が十分にある場合
モラハラの加害者側に十分な監護実績があり、別居時若しくは離婚時にも継続して監護を行っている場合も、親権者とされる可能性は高いと言えるでしょう。夫婦間にモラハラがあったとしても、それが親子関係に影響していない場合には、夫婦間のモラハラ加害者だからという理由だけで加害者側が親権者となることが否定されるわけではありません。
かといって、主たる監護権者に子へのモラハラがあった場合にも、直ちに親権者となることが否定されるというわけではありません。子へのモラハラの内容や程度、今後の改善の見込み等を総合的に考慮したうえ、子の監護実績に鑑みてもなお親権者となることが相応しくないといえるのかどうかについて、慎重に検討されることとなるでしょう。
4 モラハラが原因で別居した場合の親権獲得への影響
正当な理由なく離婚をするために子を連れて別居を開始することは、親権を獲得するうえで、上述した⑤監護開始の違法性という要件に抵触し不利になることもあるためおすすめではありません。しかし、モラハラ(精神的・経済的DVを含みます。)から逃れるため別居せざるを得ず、子の主たる監護者が子を連れて別居を開始した場合には、監護の開始が違法とまで評価されることは少ないといえるでしょう。
いずれにせよ、子にとっては環境が大きく変わる出来事の一つになりますから、別居後に少しでも早く健全に生活できる環境を整えることが大切です。別居前の監護実績もそうですが、別居後に子の生活基盤が整っていないと、別居に違法性がないとしても、監護者として適切でないと判断されることもありますので注意が必要です。
5 別居後の面会交流
親権者としての適格性を考えるにあたっては、別居後の対応も非常に重要になります。モラハラを原因として別居を開始し、離婚に至ったとしても、親子の関係はなくなりません。特に夫婦間のモラハラが原因となっている場合には、親子関係には特に問題がなかったといえるケースも多く、監護権や親権の問題で自身が不利にならないためには、別居親との面会交流を充実させることもポイントとなります。親子関係に問題がないにもかかわらず、同居親が別居後も面会交流を拒み続けていると、監護者及び親権者としての適格性が疑われることにもなりますので、どんな形でも交流を持たせること、段階的に面会交流を充実させていくことが重要ともいえるでしょう。
6 子への接近禁止命令
保護命令制度とは、配偶者や同居の交際相手からの暴力や生命・身体に対する脅迫行為の被害を受けた者が、自分や子供に接近しないよう制限する制度です。モラハラがあれば全て認められるというものではなく、生命・身体への脅迫(例えば、包丁を持ち出し「殺す」と言う等)を伴うものでなければなりませんが、状況が深刻な場合には、このような制度を利用するなどして自分及び同居する子の安全を守らなければなりません。これが認められている場合には、別居にやむを得ない事由があったことが推定されますし、面会交流等を実施できずとも仕方がないという判断になることが多いでしょう。
7 モラハラが絡む親権争いで注意すべきポイント
ここまで、モラハラにまつわる親権争いについて解説してきました。たとえ夫婦間にモラハラが存在する場合であっても、親子関係に問題がなく、監護実績も十分にあるといえる場合には、モラハラの被害者・加害者のどちらであっても親権者に指定される可能性はありますので、夫婦関係と親子関係は別のものとして判断されると考えたほうが良いでしょう。
したがって、モラハラを原因として別居を開始した方、これから別居を考えておられる方は、モラハラの内容やその程度、子どもの状況、これまでの監護実績等様々な事情をお伺いしたうえで、方針を立てる必要があると考慮する必要がありますので、一度詳しい弁護士へ相談されることをお勧めします。
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