モラハラと法律
目次
1 はじめに
近年、配偶者からモラハラを受けているという内容のご相談をされる方が増加しております。
以下では、法的観点からみたモラハラについて、解説していきます。
2 モラハラとは
(1)モラハラは法律用語か
日本の法律では、家庭内における「モラハラ」は定義されていません。原則として、夫婦の一方の行為が「モラハラ」にあたるかどうかによって、直接に夫婦間の法的紛争に関する結論が変わるという仕組みにはなっていないのです。
(2)日常用語としてのモラハラ
もっとも、一般的には、「モラハラ」とは、道徳や倫理に反する言動によって相手に精神的苦痛を与える行為全般を指す言葉として用いられます。
夫婦間では、理由なく無視したり侮辱的な言葉を浴びせる、家庭の維持に関する相手の貢献や努力を過小評価したり、自身の問題行動について相手に責任転嫁したりするような攻撃的な言動等が問題となります。
3 モラハラを理由として離婚できるか
(1)相手との話合いによって離婚する方法
夫婦の双方が離婚することで合意できる場合には、未成年の子の親権者さえ定めれば、離婚することができます(協議離婚といいます)。
また、直接モラハラの加害者である相手とやり取りすることが難しければ(多くの場合がそうだといえるでしょうが)、裁判所(調停委員会)を間に入れた形で、夫婦が間接的に離婚について話し合う「調停」手続を利用することもできます。
(2)離婚訴訟を提起して離婚する方法
相手が自らのモラハラを認めるケースは稀であるため、こちらがモラハラを理由に離婚を求めても、応じない可能性は十分に想定されます。
この場合には、離婚訴訟を提起し、裁判所に離婚判決を出してもらうことで、夫の同意なしに離婚することを目指しますが、離婚判決を得るためには、裁判所に対し、法律によって定められた離婚事由(典型的には不貞)が存在することを示す必要があります。
この点、不貞と異なり、モラハラ自体は法律で定められた離婚事由にあたらない(そもそも、現在の日本の法律では、定義すらされていません)ため、他に相手の不貞等の事情がない場合、そのままでは離婚判決を得られる見込みは低いでしょう。
この場合には、モラハラ以外の事実(多くの場合には、夫婦が長期間別居していることが重要な事実になります)も合わせて、婚姻関係が破綻していることを主張立証することで、離婚判決の獲得を狙います。
モラハラの事実を示すことで、夫婦関係が破綻していることの立証を補強していくケースもあります。
4 モラハラを理由とする慰謝料請求の可否
モラハラに苦しんできた側としては、せめて相手に金銭的に償って欲しいと考えるのも自然でしょう。
裁判において、モラハラを理由とする慰謝料請求が認められるためには、通常の夫婦喧嘩の範囲を逸脱した異常な言動が反復継続して行われてきたことについて、具体的事実(いつ・どこで・どのような言動があったか・それによりどのような影響があったのか)を証拠により証明する必要があります。
多くのケースで、この証明のハードルを越えることができず、慰謝料請求が認められるには至っていません。
また、慰謝料が認められる場合でも、原則として僅少な額が認定されるにとどまるため、適切な見込みを立てずに訴訟に踏み切ることで、経済的な損失を生じてしまうリスクがあります。
5 最後に
以上のように、モラハラについては、立証が難しいだけでなく、立証に成功した場合でも、法律上は決定的な事実として扱われないことが多いといえます。実際に離婚するにあたっては、法的知見をふまえた上で、モラハラの主張以外の点も含めたより総合的な作戦を考えていく必要があるのです。
もし、「モラハラに苦しんでおり、離婚を考えているが、どうすれば良いのかが分からない」といったことでお困りなら、離婚相談の経験が豊富な弁護士にご相談されるのがよいでしょう。