離婚後の共同親権について
目次
単独親権から共同親権になります
離婚後であっても、当事者間の合意や裁判所の判断によって父母の双方が親権者となること(共同親権)を認める民法の改正案が早ければ2026年に施行されます。
以下では、導入が見込まれている離婚後の共同親権について解説します(当記事は、2024年5月12日時点で作成したものとなります)。
親権とは
親権とは、子の監護・教育に関する身上監護権と、子の財産の管理に関する財産管理権をいいます。
親権の具体的内容として、親権者には子の居所指定権や職業許可権等が認められ、子の財産に関する行為について包括的代理権が認められています(子の法定代理人)。
法改正前の親権に関する規律
改正前の民法では、未成年の子は婚姻中の父母の共同親権に服するとともに、夫婦が離婚するときは一方を親権者と定めることとされており、双方を親権者としたり、親権者を定めずに離婚することは認められていませんでした。
また、従前から、離婚の合意はあるものの親権が争われている場合、手続上は、家庭裁判所の審判により親権者を定めることにして離婚調停を成立させる余地がありましたが、実務上、親権者が確定しないまま離婚を認めることは子の福祉に適合しないと考えられてきました。
改正法の概要
離婚後に共同親権となる場合
当事者間の協議による合意
改正法では「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める」旨を規定されており、当事者間の合意があれば離婚後も共同親権とすることが認められました。
また、親権者の定めがなされていなくとも「親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされている」ときは離婚の届出を受理できることとされました。
裁判所の判断
改正法では「協議が整わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をする。」旨が規定され、当事者間で合意に至らない場合でも、一方当事者の請求により、裁判所の判断で離婚後も共同親権とすることを認めています。
また、裁判上の離婚(離婚訴訟の判決による離婚)の場合も、裁判所は父母の「双方又は一方」を親権者として定めることとされています。
共同親権にするか否かの判断基準
改正法では「裁判所は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するにあたっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。」と規定されています。
これは、共同親権と単独親権のいずれかを原則とする旨は規定されておらず、裁判所の運用に委ねていると考えられます。
この点について、子と同居している親に問題があり、同居していない親の意見を反映させる必要がある場合等において、一方当事者の請求により、裁判所の判断で共同親権を認めるべきであるとの見解があります。
しかしながら、これと反対に、一方の親に問題があって他方の親に親権を認めることが良い場合は、むしろ他方の親の単独親権にすべきとも考えられるところです。
このため、結局、いかなる場合に共同親権が子の利益に適うと判断されるのかは現時点で明確ではありません。
単独親権を希望する当事者としては、相手方と子との関係に問題があることや、自身と相手方との対立が激しいこと等を伺わせる具体的事実を主張していくことになるでしょう。
共同親権が許されない場合
改正法では、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならないと規定されています。
「子の利益を害するとき」の例として、①「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」、②「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」を挙げています。
そして、②「父母が共同して親権を行うことが困難である」か否かを判断するにあたっては、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、協議が整わない理由その他の事情」を考慮することとされています。
ⅮⅤに関し、改正法で共同親権が否定される例として挙げられているのは、暴力等の「おそれ」がある(ため共同親権が困難であると認められる)ときであり、過去にⅮⅤがあったとしても必ず共同親権が否定されるとは限りません。
単独親権から共同親権への変更
改正法では「子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって親権者を変更することができる」と規定されています。
このため、改正法では、一方当事者の請求により、裁判所の判断で単独親権から共同親権へ変更することも可能とされています。
裁判所に対する請求に期間制限等はなく、既に婚姻関係を解消しているか否かといった事情にかかわらず、未成年の子がいる当事者間では共同親権への変更が可能となってきます。
そして「家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のために必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。」としており、「協議の経過」については、「父母の一方から他方への暴力等の有無、調停等の利用の有無、公正証書の作成の有無その他の事情」を勘案することとされています。
子の監護
分掌
改正法は、離婚後も共同親権となっている場合、父母の一方を子の監護をすべき者と指定しなければならない旨の規定を設けず、当事者間で協議により「子の監護の分掌」について定めることとしています。
なお、協議の結果、父母の一方を子の監護をすべき者と定めることも可能です。
「子の監護の分掌」について協議が整わないときも、一方当事者の請求により裁判所が定めることになります。
子の監護をすべき者が指定された場合
改正法では、「子の監護をすべき者」として指定された親権者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定・変更、営業の許可・許可の取消し・制限をすることができ、他方の親権者はこれらを妨げてはならないとされています。
親権の単独行使
改正法の規定
改正法は、父母双方が親権者であるときは、共同で親権を行使する(一方が単独で行使することは認めない)ことを原則とし、①他の一方が親権を行うことができないとき、②子の利益のため急迫の事情があるときは、一方が親権を行い、また③監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使は単独ですることができる旨の規定を設けています。
また、共同で親権を行使しなければならないとき(①~③以外の場合)で、親権の行使に関する父母の協議が調わない場合には、子の利益のために必要があると認められれば、家庭裁判所の判断で、当該事項について父母の一方が単独で親権を行使できることとされています。
②「急迫の事情」③「監護及び教育に関する日常の行為」についての単独行使
「急迫の事情」がある、あるいは「監護及び教育に関する日常の行為」として親権の単独行使が認められる具体的場面について、改正法は例示していません。
更に、親権の単独行使が認められる場合において、父母いずれの親権(単独)行使が優先するかについても、改正法では定められていません。
そのため、とりわけ離婚後の共同親権の場面では、法律上単独で親権を行使することが認められるか否かにかかわらず、学校等の第三者が、事実上父母の一方による単独での親権行使に応じることに消極的になる可能性があると指摘されています。
最後に
共同親権の導入にあたっては、裁判所の運用に左右されるところが大きいこともあり、子の監護・親権をめぐる紛争の激化が想定されます。
「離婚を考えているが「親権がどうなるのか不安」といったことでお悩みの場合は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。
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